
警察犬に盲導犬、災害救助犬を様々な場面で活躍する犬達の姿を目にする度に、驚くほどの知能の高さに感嘆するものです。
これまでこのような特殊使役犬は、特定の犬種の大型犬に限定されていましたが、最近ではプードルや柴犬といった小型、中型犬の採用も進んでいます。
特殊な知能を持った犬と一般的なペットとでは、同じ犬種でも一体どのような思考の違いがあるのでしょうか。
正しく状況判断をし、NOが言える事がハイスペックな証
特殊使役犬に選ばれる犬達は数千頭に一頭とも言われるほどに狭き門です。
この狭き門を通過する為には、幼犬期から特殊な訓練を受け様々なケースに対応出来るように社会化を重ねます。
中には同じ兄弟、親子でも採用試験の結果は異なり、必ずしも血統や犬種が採用にあたっての条件にはなっていません。
実は採用にあたって絶対的に必要なことは、「NO」といえる知能を持ち合わせているかどうかです。
犬は本来人間にとても従順で、どのような場面であっても飼い主から指示がでれば全力で取り組むものです。
例えば飼い主が「進め」と指示をだせば、どんなに荒れた道でもどこまでも進むでしょう。
厳しい訓練を受けた犬なら、なおのこと飼い主の指示に絶対的に従います。
しかしこれでは特殊使役犬の役目を任せる訳にはいきません。
特殊使役を担う為には、たとえ飼い主から指示が出ていても、犬自身の判断で「NO」と意思表示をする事が求められます。
この意思表示は、犬が常に正しく判断をする事が求められるので、相当な高知能と言えます。
具体的には、赤信号です。
飼い主が進めと指示をだしても、犬自身が判断をし、赤信号なので進まないという意思表示をしなければなりません。
災害救助の現場でも、先へ進もうとする人間にただ付随して歩くだけでなく、立ち止まる様に意思表示をする事が求められます。
この意思表示には正しい根拠が求められ、単なるわがまま、誤解と人間に判断されてしまわないように明確に伝える必要があります。この「NO」と言える思考を持ち合わせているかどうかが特殊な使役を任せられるかどうかの分かれ目になるのです。
ブラッシング時でわかる使役犬の向き・不向き
NOといえる事がハイスペックな証というと、「我が家の愛犬もNOを連発します」というご家庭も多い事でしょう。
散歩に出かける時、洋服を着せる時、ハウスに入れようとしたとき、愛犬が「NO」と意思表示をする事がありますが、これは単なるわがままによる意思表示であって、愛犬が確かな根拠をもって判断を下しているわけではありません。
ひとつ、長毛種に分類される犬の「ブラッシング」を例にしてみます。
犬の中でも長毛種に分類される犬達の中には、この「NO」を連発するわがまま犬が多数います。
プードル、ヨークシャーテリア、シュナウザー、マルチーズ、シーズー、コッカーなど、定期的に被毛のカットが必要な犬種と暮らすためには定期的な家庭でのブラッシングが欠かせません。
でも犬にとって一か所に立ち止まり、姿勢を維持し、被毛にブラシでテンションがかかる事は決して快適なことではなく、犬はNOと意思表示をします。
飼い主が手を緩めずにブラッシングをつづける、厳しい声で叱る、押さえつけるなどの行動に出れば、より強くNOと意思を伝えようとし、場合によっては噛みつく事もあるでしょう。
この「NO」と、使役犬に必要な「NO」は全く別です。
極端なことを言うと、使役犬は逆に、ブラッシングで不快な思いをしていても(ブラッシングが嫌いでも)「NO」を出さないことが要求されます。
つまり、我慢できるか、できずに抵抗するかの違いです。
もちろんこれは、ブラッシングを「必要なこと」として幼犬の頃から習慣にしていればクリアしやすいことですが、ブラッシングひとつとってみても、使役犬に向いている犬とそうでない犬の傾向はわかるものなのです。
おまけ 『刑事犬カール』で刷り込まれた警察犬イメージ
1977年にテレビで放送されていた『刑事犬カール』。
私も当時、夢中になってみていた一人で、しっかりと ジャーマン・シェパード=警察犬 のイメージを刷り込まれた口です。
子供ながらに、強そう、お利口さん、頭が良い、助けてくれる、守ってくれる、シェパードに対してこんなスーパーマンみたいなイメージを抱いていました。
シェパードは実際に使役犬として合格することが多いのは確かで、生まれながらに訓練に向いたDNAをもっていることが想像できますが、全部のシェパードがそうかと言われると、決してそんなことはありません。
臆病で気弱なシェパードだっていますし、体が弱かったり、皮膚が弱かったり、体力がないシェパードだってたくさんいるんです。
改めて、テレビで刷り込まれた犬種に対するイメージで犬をみてはいけないと思いますよね。